●「Blast!」や、今回参加した「Museum」では、ダンス、アート、異なる分野のサウンドと、様々なクリエイトとコラボレーションするわけですが、その係わり方についてはどう感じていますか?
そうですね。いま自分のなかでいろんな活動を通して意識していることがあるんです。それは「共存」、「周りと波長を合わせる」って言うことなんです。たとえば今回で言うと、水墨画、料理、エレキギターとそしてタップダンス。このそれぞれの異なるパフォーマンスを、どうやれば一つにまとめ上げてプラスのエネルギーに表していけるんだろうっていう、これは一つの自分に対するチャレンジ、実験でもあるんですよね。他のエネルギー、要素との共栄、調和です。「Museum」はそれを自分に課してみるチャレンジのプロジェクトという意味合いもありました。しかし、これは「Blast!」やそれ以前の様々な経験を経て今たどりついた心境であって、以前は少し違っていたかもしれません。特に「Blast!」に参加し始めたころは必死でしたし、いかに自分のパフォーマンスのクオリティを高めていこうかということを考えるし、いままでとは違う環境、与えられた空間の中で、どういう気持ちの持ち方をすれば最高のプレイができるのかというところの探求心が強く出ていました。そもそもはじめは、複数いるメンバーの中の一パーカッショニストという立場でしか無かったわけですから、そこから自分の目指すべきポジションを見据えて、そこにたどり着くにはどうすればよいかという戦略的なところもあったとおもうし、もちろん純粋にパフォーマンスやアンサンブルを楽しむということが有ったとしても、自分のこれまで続けてこれた原動力は目標をかちとることでしたね。そのうち、ソロのスポットに入るようになって、パフォーマンスの組み立ての役割を担うようなことも出てきたときに、全体をどうふくらますかとか、自分以外のメンバーを含めてどうみせるかというように、見方がかわってきたんです。その中では、提案や意見の交換をすることでのコミュニケーションも図れるようになったし、作られていく物もタイトになってきたという手応えを感じることができました。構成や演奏内容に変化はなくても、間違いなく出てくる音にハートがあるというような、ショー全体のまとまりというのもここで生まれてきますよね。
はじめの頃の自分をまずアピールするという時期と、全体の成功を考えるようになってからでは、実は後の方が自分のプレイや発言が全てプラスに作用していくんだと事にきづいて、「ああ、これはもっと早くそうするべきだったな」なんて考えることもあります。これは、今まで一方的に発信するばかりだった状況から、周りとの対話をし始めることによってふくらんでいけるというところに移行してきたということなんでしょうね。
●いままさに世界の舞台で、プロフェッショナルのパフォーマンスをしている目からみて、日本の、特に東京を中心とした都市文化や、そのなかにいる若者についてどういう思いがありますか?
まず最初に思うのが、東京という街のユニークさについてですね。東京は世界の中でも、かなり独特の文化やシステムをもった都市だと思うんです。そしてこれは多かれ少なかれ、今の日本、日本人に共通するメンタリティから来ている現象だとおもいます。一つには、日本、特に都市部では、情報の共有化のスピードが驚くほどはやいですね。テレビや雑誌、今ならネットなどから情報を発信していて、これが次の日には大部分の人に共有されている。これがNYなら、人種の違いやライフスタイルの差で、こうも速い速度で情報をシェアすることは難しいんです。僕は、有る一つのことを効果的に成長させて行くには3つの事が必要だと思ってるんです。一つは「環境」、2つめが「時間」、そしてこの「情報」なんですね。そういう意味では、日本、東京の持つこの情報の早さとそこから来る環境の整えやすさは人を良い方向に向けるものとして肯定的に考えています。ただしこの情報や環境は取捨選択の方法を誤るとうまく作用しないですよね。現在の日本人に独創性がなく、本当のクリエイティブを生み出す力が弱まっているとしたら、これはその用意された情報をバランスよく吸収できていないのだと思います。そして、不足しているものはやはりコミュニケーションやそこから得ることのできる調和、協調というものなのかもしれませんね。人間は顔色、声色を確かめ合って様々なものを学んでいくし、せっかく用意された膨大な情報やすばらしい環境も、そういった下地なしには役に立たないどころか、逆に問題を引き起こすことにもなりかねないのではないでしょうか。結局は人と会って話して、お互いの関係を考え、共存する、調和する、これに尽きると思います。その上で必要な要素は日本には揃っているし、これからもいい物は生まれてくると信じています。
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