常に自分自身と向き合い、物事の本質と根源に立ち向かい、アイデンティティをさらけ出す。
そんな活動をしている、「富士魂」をもった、アーティスト、クリエイター達の声を聞く。
デビュー以来、その個性的な演技とシャープな風貌で様々な役柄をこなし、いまもまだ変化を続ける俳優「池内博之」。変幻自在の演技の奥にある、柔軟性の根源を語っていただきました。
■ ウィルソン・イップ監督、ドニー・イェン主演の映画「葉門(イプ・マン)」への出演で、香港での制作に参加されましたが、いかがでしたか?

正直にいって最初は本当に戸惑いました。アクション映画ということでの身体的な面でもそうですし、また映画制作そのものも日本のやりかたとは全く違っていましたからね。アクションに関しては、前もってビデオをもらい、それをホテルや現場でかなりの時間練習をして望みましたが、クランクイン直後はまったくだめで。ただ、それは時間を重ねることで克服できましたし、せっかくそのような現場に関わっているのだから出来る限り自分自身で望みたいという意地もありました。その甲斐あってほとんどのアクションシーンは自分で演じているんです。  

言葉の問題や現場の進め方はなかなか慣れる事ができず、その中で自分の演じたいものを出してゆくのは大変でした。うまくいかず、プレッシャーもあり、本当に涙がでるほどくやしかったですよ。それでも、問題に直面したときや、いままで自分の知らないスタイルに出会ったときなどは、わりとすんなり受け入れていく方なんです。自分の今までやってきたやり方はそれとして、新しいチャレンジと感じるんですね。そういったそれぞれのやり方の中でしか生まれない物って絶対ありますから。そして、一旦このやり方に従うぞと思い込めば、あとはがむしゃらにやりますし、もちろんその中で最良の結果を出すためにのめり込むタイプなんですね。

■ 本格的な海外での仕事ということでしたが、そのなかで自分のなかの富士魂のようなものを感じることは有りましたか?

富士魂といえるかどうか解りませんがそういった、向こうのやりかたが既にあるのなら、それにこちらも入っていくべきだという考えは、常に持っています。未知の壁にであったとき、逃げていてはいつまでも逃げることに成ってしまいますからね。「受け入れて消化する」「どんな状況でも、やるとなったら結果をのこす」これはある意味、日本人の柔軟さといういみで富士魂かもしれない。

香港スタイルの撮影が進む中でも、ここぞ、というシーンでは自分の納得のいく形で演技できるよう、時間をかけてもらったんです。最初は向こうも、そんなスタイルに違和感を持っていたようですが、ウィルソン・イップ監督や武術指導をしてくれたサモハン・キン・ポーなどは、逆にそんなやり方を受け入れてくれました。
■最近、富士山の頂上まで登られたそうですね。

実は今回が初めてだったんです。しかも前もって計画してたというわけでなく、たまたま友人の誘いが3日前にあって(笑)ほんとタイミングですね。3日後か。。。と一瞬戸惑ったんですが、これはきっと運命だなと感じで参加することにしました。こういうのはわりと大切にする質なんですよ。 とにかく頂上に上がった瞬間の気持ちっていうのは、言葉にできないですね。ぶわっと何かがこみ上げてきたってのは覚えてるんですが、それがなにかは正直わからないです。長い時間かけて登ってきたぞという達成感や、目の前に広がる絶景にたいする感動はもちろんありましたが、その瞬間のそれは違いましたね。はっきりいって「無」でした。しかも、このとき見られた朝日というのは、1年にあるかないかという「光環」という特殊な現象だったらしくて、これもなにか運命的なものを感じさせられました。とにかく涙がでましたね。

登ってくる途中は、「あぁ、まだかなぁ。」とずっと思っていましたけどね(笑)

※こうかん【光環】【光冠】 太陽が虹のような光の輪を伴う現象。霧を通して朝日を見たときなどに見られる。

■富士に登ったことで環境の問題など感じたことはありましたか?

富士に登ってみて思ったんですが、意外とゴミなどもなく綺麗でしたね。すくなくとも上ってる途中の道は。最近になって美化が進んできたのだとしたら嬉しいですね。環境の問題やエコロジーに関しては普段は自然体です。若い頃から比べればその意識は勿論変化しているし、よりそういった事にも気持ちを向ける様になりましたが、それも知らないうちにという感じかな。大きな目標をたてたり、大義を感じてって言うのは違ってて、やれるだけの事を、今の自分の意識の中でやっていく。そういう感じかな。 そしてそういった好い方向に自分が変わっていけたのも、すべて周りのよい環境や友人などの影響で、これは完全に出会いによりものですよね。若い人には、是非キャンプをしろ!と言いたいですよ(笑)釣やキャンプは本当にいい。一つのきっかけからさらに自然に対する興味も増して、海や山へも積極的に出かけるようになる。そして、そんな自然を目の当たりにして、また意識が高まる。とにかく現実をみる。本来有るべき姿を知ると言うことが大切なのかもしれませんね。だって、美しい自然の中にペットボトルやゴミが捨てたれているのを見てしまえば、心のなかで何かが動きますよ。そんなきっかけを見つけたら、とにかく一人一人が少しずつでも自分のやるべき事をしって、責任感を感じていく以外無いのではないでしょうか。